松本市内に現存する数少ない武家住宅

松本市街地の裏路地にあり、長年住んでいる地元民も気づかないくらいのマニアックな「重要文化財指定されている武家屋敷」
車で何度も通っていますが、親類に聞くと「全く知らない」というほどの存在感というかオーラが薄い。長野県でも最古の武家住宅と言われているのに…
「もっと偉い人だったら松本城の中や近くに住んでるよね」ということで、下級武士の住宅のようです。
時代劇はあんまりくわしくないけれど、必殺仕事人の中村主水あたりと想定しました。

靴を脱いで中に上がることが出来ます。こちらは土間。

昔はかまどや風呂だったようです。

松本藩が藩士の住まいとして所有していた官舎で、建築年代は17世紀前半から享保11年(1726)までの間と推定されています。
昭和44年(1969)に松本市重要文化財に指定されました。その後、古文書をもとに、幕末から明治時代初めのころの姿に復元修理を行い、武士の暮らしを伝える博物館として開館しました。
建物の復元修理を行い、博物館施設として活用を図ることとし、平成19年度~20年度にかけて修理工事を実施したそうで、復元の様子も展示されています。

明治16年頃の古文書に記載されている間取りを参考に幕末から明治あたりの状態に修復したとのこと。
シンプルに徹底した価値観

部屋が田の字型に配置される間取りは、農家にも見られるものですが、中床や押し入れがつく点や、げんかんにとりつぎの間がある点で民家とは大きく異なっています。
引用:https://www.city.matsumoto.nagano.jp/soshiki/134/3925.html
玄関を入った最初の部屋は「とりつぎの間」。
お客さまをここでお迎えして、ここでお話したりお茶を出したりする部屋のことですが…
確かに今でもセレブのお屋敷はこういったプライベートな空間に人を入れるのは余程親しい人だけで、ビジネス的な接客には専用のお部屋を持っていそうなので、下級武士とはいえ、これだけでも一般家庭とは違うのでしょう。

あとは、天井の梁を隠すようになったのはこの頃らしく、今では普通ですが、当時の最先端。
こういうところにお金をかけるというのは、武士はおもてなしの心が強いという現れなのでしょうか。それとも、こういうところをしっかりやらないと恥ずかしいという気持ちの現れなのでしょうか。
武士は食わねど高楊枝。お金はないのに、お金で見栄を張るのも当時は普通のメンタルだったのかもしれません。

こちらはプライベートな空間で、武家家族たちが普通に生活している部屋のようですが、天井に梁が残っています。
客をもてなす部屋だけ、梁を隠しているところまで忠実に再現されています。

とにかく江戸時代の武士は簡素な部屋に住んでいた事がわかります。
権力を持つ者(武士)にはお金はなく、権力がない者(商人)が金を持っている時代ですから。今とは大違いです。
とりつぎの間からも、玄関から続くシンプルで小さな内庭が見えます。この辺りを「粋」と表現したら良いのでしょうか。
デザインの学校に通っているときに、「レス・イズ・モア」というドイツの建築家ミース・ファン・デル・ローエが提唱した概念を習いました。「少ないことは多いこと」。不要なものは徹底的に削ぎ落とし、本質的な心の豊かさや価値を際立たせる。
20世紀の建築物やデザインに影響を大きく与えた概念で、西新宿のシンプルなビル群はその影響を受けた作りだと習いましたが、それよりも武家屋敷はその最たるものだと思っていました。
まさに、侘び寂び。

プライベート空間からも、お庭が眺められ、四季の移ろいを感じているのでしょう。

暗い部屋から覗く大きな光の塊は、より美しく見えたと思います。お金がなくても、自然を見て楽しんだり、心を落ち着けたり。
時代劇の世界観がそのまま再現されています。

江戸時代中期の建築物ということで、ここだけ時間が止まっているような感覚に。
屋根の部分も置き石屋根で、江戸時代初期のもの。屋根材が風で飛んでいかないように、石で押さえたというシンプルな発想。
わらぶき屋根よりも火災のリスクが少なく、メンテナンスも1年に1度。手間もシンプルになってきていたんですね。
まとめ

江戸時代はこのあたりは火災が多く、当時の武家屋敷が残されているのは大変稀有なことみたいです。
無料で観覧できる重要文化財なのに、地元の人の認知度も少なく、せっかく税金をかけて修復工事をしたのに、訪れる人があまりにも少なすぎる。せっかく修復したのだから、もうちょっと広報活動してもいいかも。
庶民の生活をちょっとだけ垣間見るのが好きな人や、城が好きな人には意外とハマるかもしれない。私は、それでした。江戸東京博物館は割と好き。
でも、それ以外の人は、「ふーん」で終わるかもしれない(^_^;)
こちらは松本市立博物館の分館だそうですが、それ以外にもマニアックな「松本民芸館」もそんな感じです。